レイアップ
次の瞬間、おれが目にしたのは空中に浮かんでいるミウの後ろ姿だった。
それは確かに“跳ぶ”ではなく“浮かぶ”だった。
ゆっくりと翼を羽ばたかせるように、ミウはスローモーションでリングへと浮かんでいく。息を飲むほど綺麗な画だ。
「反則だろ。そんなの」
おれはようやく確信できた。おれがこの夏出会ったのは、一人の女子高生ではなく、一人の天使だったんだ。
ミウの右手に掴まれたバスケットボールは、そのまま勢いよくリングへと叩き込まれた。生まれて初めて見る生のダンクシュート。ガシャン、と大きな音を立てて錆び付いたリングがギシギシと軋む。ミウはしばらく片手でリングにぶら下がり、ゆらゆらと体を揺らした後、手を離してストンと床に着地した。
顔にかかった金髪の髪をかきわけて、ミウがゆっくりとおれの方を向く。おれは、その顔を見て無意識にミウに駆け寄っていた。
哀しい笑顔を見せたミウが、口を開いて何かをいいかける。それを遮るようにおれはミウを強く抱き締めた。
「もういい!もう何も聞かない。もう何も喋らなくていい。だから・・・」