レイアップ
「別にそんなこと聞いてないぞ」
おれはミウの隣で、空に架かる虹に背を向けながらフェンスにもたれかかった。
「そんなにスネた顔しないでよ。勝負ならシュウの勝ちなんだから」
「勝ってなんかない。でも、絶対すぐに勝ってみせるよ。だから、おれに負けてもないくせにあれこれ勝手に喋るのはやめてくれ」
ミウは、駄々をこねた弟をなだめる姉のように、優しく微笑んだ。
「だって反則でしょ。浮かんだり、消えたり、ダンクしたり、そんなの普通の人間ができることじゃないから」
“普通の人間”その言葉がおれの頭に重くのしかかった。これは悪い夢だ。この夏おれが見た夢の中でもダントツの悪夢。
しかし、夏休みに終わりがあるように、どんな悪夢にも終わりがある。夢から覚める時がくる。
それは、いくら抵抗しようとも、“普通の人間”にはどうすることもできないものだ。
「かってにしろ」
おれは平静を装いながらも、自分の心臓がバクバクと鼓動を速めていくのを感じていた。夢の出口はすぐそこまできている。
おれは黙って、ミウが普通の人間だった頃の話を聞くしかなかった。