レイアップ


「夕飯の買い物途中でお母さんは倒れた。救急車で病院に運ばれて、そのまま検査入院。風邪ひとつ引いたことがないお母さんが、病室のベッドで横になっている姿を私は何度見ても信じられなかった。私は悪い夢でも見てるんじゃないか。明日の朝になれば、いつもみたいに台所にお母さんが立っているじゃないかって・・・」

「でも、夢じゃなかった」

ミウは静かに頷いた。

「そう、夢なんかじゃない。医者は私にいった。紳士的な死神のように、穏やかだけど、苦しいくらい真剣な目をして。『残念だけど、君のお母さんはもってあと3ヶ月の命だ』って。医者は死の宣告をいい終えた後、肩の荷が降りたみたに、本来の事務的な表情に戻ってスラスラと喋り始めた。多分ガンについての説明や、病状の進行具合、それを遅らせる治療方。そんな内容の話だったと思う」

淡々と喋るミウの声が痛々しくて、おれは耐えきれず分かりきった質問をした。

「どうにもならなかったのか」

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