レイアップ
「どうにもならなかった。お母さんの中でひっそりと身を潜めていた病魔は、一気に牙を剥いて、容赦なくその命を削りとった。医者の宣告より2ヶ月も早く・・・。呆気ないくらいあっという間で、私は涙を流すタイミングさえ見つからなかった。それはね、お母さんも同じだったんだ。最後まで自分が死ぬなんて思ってなかったみたい」
ミウの目に光はなかった。空に架かる見事な虹も映っていない。全ては瞳の中にある暗い闇に吸い込まれていく。
涙さえ凍ってしまう悲しみとは、いったいどんなものなんだろう。突然蓋をされた心の痛みは、いったいいつ溢れ出てくるんだろう。おれには到底、想像もできなかった。
「お母さんが最後にいった言葉は、やっぱりバスケのことだった。本当にバスケが好きな人だった。ミウは私に似てシュートセンスがあるから、“帰ったら”カッコイイ3Pの打ち方教えあげるって。男子と同じワンハンドで3Pを打つシューターは、現役時代チームで自分しかいなかったんだよって、お母さんは自慢気にベッドで仰向けになりながら、細くなった右腕でシュートを打つ真似をした」