レイアップ


そこで目が覚めた。

部屋のデジタル時計は10時5分を表示している。
おふくろはとっくに仕事に行って、家の中はしんと静まりかえっていた。

トーストを焼いて一人ぼっちのリビングで遅い朝食を済ませる。味のしないトーストは嫌いなので、バターとジャムを交互につけてパクパクと口に運ぶが、舌が上手く味覚をキャッチしてくれない。
さっき見た夢があまりに鮮明すぎて、まだ意識は向こう側にあるような気がした。

まだ、自分のことを「ボク」と呼んでいたあの日。

自力で思い出そうとしても、あそこまで鮮明に思い出すのは多分無理だろう。

人間の脳ってつくづく 不思議だ。


それにしても、よりによって『あの男』の夢を見るなんて。

最近おれの見る夢はどれも悪夢ばかりだ。


残った眠気をシャワーで洗い流すと、ようやく気分がシャキッとしてきた。

黒のタンクトップの上から真っ白い制服のシャツを着て、暑いからシャツのボタンは全開で外へ出る。


案の定、真夏の住宅街の昼下がりは、茹だるような暑さで、アスファルトから照り返された熱は、自転車のタイヤをジリジリと焼いて、ゴムの焦げた匂いが漂ってきそうなくらいだった。

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