レイアップ
それでも、頭上の広く真っ青な空は、都心の窮屈な空とは違い、無駄に高く伸びたビルもなく、妙に清々しい気分になる。


自転車を手で押しながら、静かな住宅街を歩いて、女の子と待ち合わせした場所へと向かう。

案外、悪くない夏休みだとは思わないだろうか。

近所のおばさんが、まるで汚いものでも見るように、おれのことを横目でチラッと一別して、そそくさと自分の家へ入っていった。

昔は、よくすれ違う度に声を掛けてくれたものだが、今ではすっかり邪魔者あつかいだ。

どうも、この頭は閑静な住宅街にはそぐわないらしい。おれは、くすんだ白や、グレーの鉄筋建ての壁に上手く溶け込んでいるつもりなんだけれど。

やっぱり、世間の奥様方の目は、政治家と風紀を乱す若者にはかなり厳しい。

別に、違法に改造したバイクで、マフラーからけたたましい爆音を出している訳でもない。ただ、チャリンコを押しているだけなのに、何がそんなに気にくわないのだろう。

人を見掛けで判断してはいけません。そんな使い古された教育は、大人がつくった嘘っぱちと偽善と理想の産物だとおれは思った。


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