レイアップ
慌てて後ろを振り向いた。
案の定、おれ目掛けてボールが飛んでくる。
でもそれは、人に投げつけるような攻撃的なボールではなかった。
綺麗な逆回転、強すぎず弱すぎず、真っ直ぐおれの胸一直線に。お手本みたいなチェストパス。
使い古され年季の入ったバスケットボール。デザインもどこか古くさい。
だけど、受け止めたそのボールには、ズッシリとした変な重みがあった。
「餞別だ、受けとれ」
「なんだよ、餞別って」
このボールにはどこか見覚えがあった。多分、奴がミニバスの監督をしながら、いつも自分の脇に置いていたバスケットボール。
「最初はただの気まぐれだったんだけどなぁ、お前をチームに入れたのは・・・」
なにをぼやいてるんだこのオッサンは。
「知ってるよ。アンタはいつだってそうだろ」
「いつもってわけじゃないんだけどな」
乾いた声で短く笑い奴はいう。
「少なくともあの時は本気だったぜ。お前の才能に気付いたあの時は・・・」