レイアップ

「才能?」

おれは、思わず笑ってしまった。奴が昨日のミウとの勝負を見たらなんていうだろう。自分の目がいかに節穴か気がついてくれるだろうか。


「自分でも可笑しかったよ。現役を引退して十年以上、とっくに現役時代の感覚も熱も冷ていたのに、おれはお前の才能に嫉妬した。チビでやせっぽちの貧弱なガキに、昔の自分を重ねた。叶えれなかった夢と未練を押し付けて」

そこまでいうと、奴は急に顔をしかめた。明らかに苦痛を訴える歪んだ表情。額には不自然な量の脂汗が浮かんでいる。


「おい、どうしたんだよ」

言い終わる前に奴は膝から崩れ落ちる様に倒れた。


「監督!」

そう叫んだのはおれじゃなかった。

振り返るとあの少年が立っている。チビでやせっぽちの貧弱そうな少年。

少年は、おれに軽蔑の眼差しを向けながら、倒れた叔父に掛けよった。おれもその後を追ってゆっくりと叔父の側に近寄る。

叔父は無理な作り笑いを浮かべながら左膝を押さえていた。


< 57 / 194 >

この作品をシェア

pagetop