レイアップ
そういえばいつだったか、奴が一度だけ左膝にテーピングを巻いているのを見たことがあった。膝の周りには大きな縫い傷みたいなものが二本あったのを覚えている。
おれはその傷の事には一切触れなかったが、奴が夏でもロングジャージを履いていたのは、多分故障した左膝を隠す為だろう。
「歳はとりたくないもんだな、ちょっと動いただけで膝にきちまう」
みえみえのウソだった。
「歳のせいじゃないだろ、その膝どうしたんだよ」
奴はゆっくりと立ち上がりながらいった。
「現役の時の古傷だ。二回ほどメスを入れたが結局治らなかった・・・」
その言葉で、膝の傷がどれ程重いものなのかがわかった。その二つの縫い傷が、叔父の選手生命を奪ったのだ。
『そんな脚で、監督は今までお前にバスケを教えてくれていたんだ』
少年は、おれを睨み付けながらそういった。
だったらなんなんだよ、おれに何が出来る。叔父は脚を引きずりながらまたベンチに戻る。おれはポケットの中の携帯を取り出した。119番。
「今、救急車よぶから」
「待て、そんなに慌てるな、別に歩けない訳じゃないんだ。それに、医者なんかに診てもらわなくてもわかるんだよ」