レイアップ
何故?どうして今になって?このタイミングがユキにとってベストだったのだろうか?いや、それはないだろう。タイミングなら腐るほどあったはずだ。
いくら思考を回転させても納得のいく答えは出てこない。かといってユキからの答えが返ってくるわけでもなかった。
「綺麗だねー。ねえ、もっと近くで見にいこうよ」
それから、おれたちは特にこれといって会話も無いままただ歩いた。結局、河原は人でごった返していて、その人混みの中に入り込むのも面倒だったので、出店で買った焼きそばとジャガバタをツマミながら少し離れた所で花火を眺めた。
ユキはうっすらと口元に笑みを浮かべながら、少し尖った顎を上に向け、明るい夜空を見ている。花火の光りに照らされるその横顔は、多分あの人混みの中にいる誰よりも美しく、つくり物のような美術的価値さえ感じられた。
だけど、それでもやっぱりユキはユキだった。好きだといわれて動揺はしても、恋愛じみた感情は一切浮かんでこない。
今更、ユキを別の存在へと置き換えることなんて出来なかった。それが出来たなら、おれはとっくの昔にユキに惚れていただろう。