不機嫌な彼のカミナリ注意報2
 アドレス帳から田中の番号を探すその動作を遮りたかったのだろうが。
 俺は驚いて、思わずその手を反射的に引っ込めた。

「今日は、近くまで来たから寄っただけなの」

「なんだそれ」

「太雅の顔が見たいなって思ったのよ」

 だから田中さんに用事はない、などと堂々と言われれば、俺はなぜ今ここにいるのだろうと愕然としてくる。

「悪いけど、俺は忙しいんだ」

 出番のなかったテーブルの上のファイルを再び手に取り、俺はすっくと椅子から立ち上がった。

 忙しくても客が来ていると内線が入り、しかもそれが今現在仕事を請け負っているJ&Uの人間だと言われれば、無視するわけにもいかないからロビーまで降りてきたんだ。

 ……ただそれだけのことだ。
 油を売る余分な時間は持ち合わせていない。

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