不機嫌な彼のカミナリ注意報2
 風見さんは神妙な面持ちでそう言ったかと思うと、私の手首を掴んでそのまま通路を歩き出した。
 私たちはマーケティング部の出入り口付近にいたから、そこでは話しづらい内容なのだろう。

 風見さんは少し離れたところにある灯りの消えている小会議室の扉を開け、誰もいないことを確かめると、そこに私を引っ張り込んだ。

「ど、どうしたんですか?」

 手にしていたファイルを目の前のテーブルに置きながら、おそるおそる風見さんの表情を伺い見ると、それは怒ってるでもイライラしているでもなく、デスクで仕事をしているときのような、冷静な風見さんの姿がそこにあった。

「お前に、伝えるべきかどうか迷って、言えてないことがある。だけどやっぱり伝えるべきだから今言っておく。……J&Uの仲里のことだ」

 ――― 仲里さん。
 その固有名詞は、先ほど田中さんが一緒だったときにも散々出てきていた。

 風見さん自身がこれからなにか発信すると思うと、心の中がぞわぞわとして、思わず視線を下げてじっと床を見つめた。

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