不機嫌な彼のカミナリ注意報2
 おどけるようにそう言った栞の顔を見ると、赤らんではいない。大して酔ってはいないようだ。
 たしかに部長たちのいるあの座敷では、俺たちはひとことも言葉を交わしてはいなかった。

 ……私的な話をしたいのか? その言葉に嫌な予感しかしない。

 だいたい、俺は話すことなどない。
 嫌そうに溜め息をひとつ吐き出し、栞の言葉を無視して横を通り過ぎようとしたら、咄嗟に栞が俺の右腕をとらえた。

「会いたかったの、太雅に。……会いたかった」

 そう言葉を紡いだ栞を見下ろすと、熱を孕んだような大きな瞳でじっと見つめ返される。

 それは、あのころの……俺を好きだった頃の、栞の瞳のように思えた。

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