不機嫌な彼のカミナリ注意報2
「それは全部目に見えないもので……穏やかな気持ちだったり、嘘偽りのない心だったり、真っ直ぐに人を信じる純粋さだったり。俺にはないものばかりだ。人は温かい心に触れると自分の心も温かくなるんだと、お前に教わったような気がする」

「……風見さん……」

「でも、どう考えても返しきれないんだ。お前に貰った同じものを同じだけ、いっぺんに返すなんてことは俺には無理だから」

 ごそごそと、風見さんが上着のポケットに手を入れて、なにかを素早く私の左手に握らせるように手渡した。

「だから……少しずつ返していく。一生かかるけど」

 ポカンとしながらも、薄暗闇の中で自分の手の中のものを確認すると、それは小さな正方形の箱だった。

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