龍泉山の雪山猫
「サチ、まだ起きない?」

うっすらと意識が戻る中、ジンタの声が聞こえる。

「熱は下がってるみたいなんだけどね。もう少し休ませてあげましょ。ジンタ君、本当にしばらく畑仕事お願いしていいの?」
「もちろん!心配しなくていいよ。元はと言えば、俺がちゃんとサチを守れなかったから...。ごめんなさい、おばさん。」
「ジンタ君のせいじゃないでしょう。それに、ちゃんと帰ってきたじゃない。」

お母さんの声が涙ぐんでいる。


ごめんね、お母さん。やっぱり心配かけちゃったね。

「じゃ、俺また後でサチの様子見に来る。」
「ありがとう。」

戸の閉まる音が聞こえた。
ゆっくりと目を開くと、家の中は明るかった。もう、お昼ぐらいになるのかな。

お腹すいた...。
そういえば、隣町でお昼ご飯食べたきり、何も食べてないや。

「サチ、目が覚めた?」
優しいお母さんの声。声の方を見ると、お母さんがわたしの顔を覗き込んでいた。

「お腹すいた。」
わたしの声にお母さんは少し微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。
お母さんが一人で立ち上がるの、久しぶりに見る。

「いいよ、お母さん。わたしがやるから...。」
そう言って起き上がるも、頭が痛くて座っているのがやっとだった。
「お母さんのことは心配しないで。ほら、とりあえずこれだけ食べなさい。今温かいもの何か作るから。」
お母さんはそう言ってわたしの膝の上に握り飯を置くと、竃の方へと歩いていった。

わたしは握り飯を一つ手に取り、口へ運ぶ。

おいしい...。

あまりの空腹に、わたしはあっという間に握り飯を二つ食べてしまった。


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