龍泉山の雪山猫

「本当は、こういうことは親同士が決めるんだろうけど．．．。俺は、サチの他にお嫁さんにしたい娘なんていないんだ。ずっと、子供の頃からずっと、サチのことが特別だったんだ。これからもずっと一緒にいたい。」
わたしはなんて答えたらいいかわからなくて、ジンタから目をそらした。
「サチは．．．俺みたいなのじゃ嫌かな。」
「そ、そんなこと！」
ジンタを傷つけるのが怖くてあわてて顔を上げると、ジンタと目が合う。
「そんなこと、ないけど．．．。」

ジンタは、わたしにとってもずっと特別だった。でも、その『特別』がジンタの言っている『特別』と同じなのか．．．それがわからない。今、こうしてジンタの目を見ているのに、わたしの頭の中にはアオの顔が浮かんでくるばかり。

「無理して答えなくていい。」
しばらく何も言わなかったわたしを見てジンタが言う。
「サチが、おばさんのこと心配でお嫁に行けないのはわかってるから。俺、おばさんが元気になるまで待つよ。それに、サチが俺のお嫁さんになりたいって言ってくれるように、それまで俺がんばるからさ。」
「そんなの、おじさんとおばさんがダメだって言うんじゃない？」
わたしが言うと、ジンタの表情が少し暗くなった。
「た、確かに．．．！」
「それぐらい考えなかったの？」
わたしが笑い出すと、ジンタも大きな笑顔を見せた。

わたしたちはゆっくりと坂道を歩いていった。ジンタの手がさっきよりも強くわたしの手を握っていた。