龍泉山の雪山猫
「アオ!」
嫌な夢から目がさめる。
暑い。身体中が熱い。苦しい。動こうとしても身動きがとれない。それに、真っ暗で何も見えない。
「ん...朝か。」
すぐそばでアオの声が聞こえた。
そして、アオがその不思議な力で行灯を灯したのか、部屋が明るくなる。始めに目に入ったのはアオの白い首筋。顔を上げるとアオの唇がすぐそこにあった。
「?!ちょっ、ちょっと!」
慌てて顔をそらすも、未だに身動きが取れない。アオの腕がわたしの体を締め付けた。
昨日、昨日あれからアオの傷のそばに手を置いていて...それで...。それからが思い出せない!
なぜかアオに抱きしめられたまま寝ちゃってた...。身体中が熱かったのはこのせいだったんだ!
「もう少しこのままで良いだろう。まだ早い。」
「良くない!離して!」
「良く眠れたか?」
「うーん、悪夢だった。」
「なんだ、随分とぐっすり寝ていたようだが?」
「寝たけど...すごく苦しかった。って、話そらさないでよ。離して!」
「離せと言ったって、お前の方から俺の胸に入ってきたんだぞ。」
「...?!」
からかうようにアオが笑う。彼の吐息がわたしの額にかかってくすぐったかった。もう、これ以上体温は上がらないってぐらい体が熱いのに、額だけがもっと熱くなったみたいだった。
「眠気に耐えきれなかったんだろう。俺の胸に手を置いたまま倒れこんできて、そのまま起きなかった。」
「そ、そうなんだ。」
「傷口にそのまま倒れこんでくるとは...あれほどの苦痛はこれまでなかった。本当に死ぬかと思ったぞ。」
「...ごめんなさい。で、傷はまだ痛む?」
「少しな。昨日よりは良い。」
「見せて。」
「そう言って俺の腕の中なら逃げるつもりだろう。」
「う...。」
離してって言っても聞かないから遠回しに逃げようとしたけど、アオに見透かされてた。でも、そろそろ本当に離してもらわないと、暑すぎて苦しい。
言い返されないのがつまらないのか、わたしの思いを感じ取ったのか、アオはようやく腕を緩めた。その隙に起き上がり、横になっていたアオの肩をおして、仰向けにさせる。はだけた着物の隙間からアオの傷を見ると、傷は塞がっていたけど火傷のように皮膚がただれていた。
傷そう...。こんな怪我したら、わたしだったら痛くて痛くて叫んでるはず。でも、アオは何もなかったかのように涼しそうな顔をしてわたしを見ていた。
「何?」
彼の視線が気になったので聞くと、アオは意地悪そうな笑みを見せた。
「無理やり俺を床に押し付けて、襲うつもりか?花嫁役は大胆だな。」
「...!」
慌ててアオから離れると、彼は大声で笑い出した。
「そんなに笑わないでよ。ただ、傷の様子を見たくて...。」
わたしの話も聞かずに笑っていたアオが急に咳き込んだ。苦しそうに胸を押さえるアオ。
「大丈夫?な、なにか飲み物を...。」
「いらん。ただ咽せただけだ。」
「でも、傷に響くでしょ?」
わたしの問いに、彼はまるで自分自身を軽蔑するように鼻で笑った。