龍泉山の雪山猫

「お前は、俺を弱い龍だと思うか?」

急な質問に何て答えたらいいかわからなくて、わたしはだまって彼を見つめた。
「お前には...傷ついた姿ばかり見られてしまう。それに、カナタ様のお強さを見ただろう?」

わたしを見つめるアオの瞳は悲しそうだった。

「弱いとか、そういうのわかんないよ。本物の龍なんて昨日初めて見たし...。いや、アオが龍じゃないとか、そう言いたいんじゃなくて。」

いやだ、何を言ってるのか自分でもわからない。
こんな意地悪で我がままで変態な龍の気持ちなんて考えなくてもいいはずなんだけど。
彼の悲しそうな瞳を見ていると、アオが傷つくようなことは言わないようにしないとってどうしても思ってしまう。

「弱いとか強いとかわからないけど、あの緋い龍はすごく怖かった。でも、わたしはアオみたいに優しい龍がいてくれて嬉しい。だって、龍神様はずっと優しい龍だって思ってたから...。」
「龍は神ではない。」
「うん、わかってるよ。でも、なんて言うんだろう...。ずっと伝説として伝えられてきて、その龍の印象が本物の龍と違ってると、なんかがっかりするって言うか、悲しいじゃない?でも、アオは伝説にでてくる龍神様みたいに強くて優しい龍なんだって...。うーん、自分で言っててよくわからないけど、わたしはアオはアオのままでいいと思う!」

最後だけ力込めて言えたけど、アオを元気付けれたのか...その自信はすぐには出てこなかった。
アオは表情を変えず、ずっとわたしを見つめていた。

「あの...。変なこと言っちゃったかな?」
「よく意味がわからん。」
「そうだよね...。」
「結局、俺は弱いのか?」
「弱くはないと思うよ。わたしの方が力ないもん。」
「人間のお前と比べられても困る。」
「そうだよね。アオは龍だもんね。そ、そういえば、アオの龍の姿はいつ見れるのかな?アオの本当の姿、見てみたいな。」

話をそらそうとして、すぐに失敗したと気づいた。アオの表情が一瞬にして暗くなった。
「本当の姿...。」
アオはそう呟いて立ち上がると、ふらふらとした足で神殿の戸を開く。

「アオ?どこにいくの?」
「...お前には関係ない。」
急に冷たくなるアオ。部屋中の空気が下がったような気がした。

「そんな...心配だから聞いてるんだよ?そんな傷のまま外に出たら...。」
そう言ってアオの元に駆け寄り、彼の腕を掴んだ。アオは一瞬わたしをにらみ、それから腕を振り上げる。わたしの体は宙に浮いて、そのまま置いてあった御膳の上に大きな音を立てて落ちた。
「痛い!何するの?!」
「黙れ。下等な人間が俺に触るな。」


アオはこちらを見ないまま、出て行ってしまった。



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