龍泉山の雪山猫
眠れないまま朝を迎え、帰郷祭りは今日で終わり。
村の人たちが集まってきて、境内がだんだんと賑やかになってきた。
祭りの最終日は境内で村の人たちが歌や踊りを披露し、みんなでお祭り最後のご馳走を食べる。
わたしの役目は神殿を出る儀式だけ。



それが終わってからは、わたしはお酒やご馳走を楽しむ村の人たちに混ざった。
いつもだったらお祭りは楽しいはずなのに、話しかけてくる村の人たちに作り笑いをするのが精一杯で、美味しそうな食べ物にも手をつけられなかった。

「飲めよ。」
突然目の前にお酒が差し出された。わたしの隣に腰を下ろしたのはジンタ。ジンタもお酒を飲んでいたんだろう、少し顔が赤かった。
「いらない。」
わたしが横に首を振っても、ジンタはお酒を下げなかった。
「お前、怖くて夜寝れなかったんだろ。目が真っ赤だぞ。これ飲んで、ちょっと酔えばすぐ寝れるだろ。帰りおぶってやるから。ほら、飲め。」
「いらない。」
ジンタの優しさはうれしかったけど、酔っぱらうような気分にはなれなかった。
「いいから飲めよ。」
ジンタこそ酔っぱらってるんだ。彼はわたしの手を取って強引にお酒を渡した。その衝動でわたしの膝にお酒が溢れる。
「あ、ごめん。」
「大丈夫。でも、シミになったら困るから拭いてくるね。」

わたしは立ち上がって境内の奥の方にある古い井戸のほうに歩いて行った。途中でミチおばさんを見つけて手ぬぐいをもらう。
古い井戸のある神殿の裏に回ると、村の人たちの賑やかな笑い声が少しだけ静かになった。
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