龍泉山の雪山猫
「帰らないでくれ。」
わたしのすぐ前で立ち止まり、悲しそうな瞳でそう言うアオはそっとわたしの頬に触れた。
「もう、人間が下等など...その様なことは言わないから。帰らないでくれ。」
「アオ...?」
「昨日は、自分の弱さが嫌になってお前に八つ当たりしてしまった。下等なのは俺の方だ。軽蔑してるだろう?」
「そんなこと思ってないよ...。お節介なわたしもいけなかったんだし。」
それを聞いて安心したのか、アオの顔が少し和らいだ。
「でもね、お祭りはもうすぐお終いだから。お母さんも心配だし、帰らないと。でも、また遊びに来るよ。ちゃんと待っててよね。夏来たときみたいに呼んでも出てこなかったら、もう来てあげないからね。」
「ああ、毎日待っているぞ。」
「毎日は来れないよ!農民は忙しいんだからね!」
「毎日来ないなら帰るな。」
突然アオはわたしの腕をひっぱり、力強く抱きしめた。

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