龍泉山の雪山猫
「うるさい奴が来る。」
「え?」
アオが首を振って合図した方を見ると、ジンタがこちらに向かって歩いてきていた。酔いがさめてきたのか、ジンタの顔はさっきよりも赤くなかった。わたしは慌ててアオから一歩離れる。

ジンタはわたしたちの数歩前まで近づくと、わたしとアオを交互に睨んだ。そして、勢いよくこちらに向かってきたと思うと、わたしの腕を掴んでわたしを引き寄せた。倒れそうになってジンタの肩にぶつかる。
「ちょっとジンタ!いきなり何よ...。」
見上げたジンタはアオを睨みつけていた。
アオの方を見ると、彼は冷たい瞳でジンタを睨み返している。

「お前、サチに触っただろ?」
ジンタの声にアオは鼻で笑った。
「触った...それがどうした?」
「勝手に触るなよ!サチは俺の...。」
言いかけて、ジンタは口を閉ざした。
「貴様の、何だ?そいつは貴様の物ではないだろう?触ったって一晩共に過ごしたって俺とそいつの自由だ。」
アオの余分な一言を聞いて、ジンタの顔が急に真っ赤になった。アオは冷たくジンタを見下す。
そんな誤解を招くようなことを言わないでってアオに叫ぼうとしたとき、ジンタがわたしの体を持ち上げて、肩に乗せた。

「サチにこれ以上関わるなよ。前にサチを助けてくれたことは感謝するけど、お前みたいな物の怪混じりサチは渡さない。」
ジンタはそう冷たく言い放ってわたしを担いだままアオの元をさって行った。わたしは何もできずに、遠ざかっていくアオを見ていた。



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