龍泉山の雪山猫
見捨てる、なんてできないよ。こんなに苦しんでいる人をほおってはおけない。

きっと、毒にやられて混乱してるんだ。すごい熱だし、毒を抜いてあげないと...。
わたしはフラフラと彼のところに歩いていって、その横に座る。

「ねえ、その肩の傷を見せて。毒を抜いてあげないと...。このままじゃ命が危ないから。お願い。」
わたしはそっと彼の頬に手をおいて言った。やっぱりすごい熱。
彼は一度わたしをキッとにらむと、それから肩を押さえていた手をどけて再び横たわる。
「ありがとう。痛くなるけど、我慢してね。」
わたしは彼の肩の傷口に口をあて、毒を抜くように血を吸い取り、地面に吐き出した。
「ぐあああ!!」
痛みにあげく男の人。彼はわたしの着物の裾をぎゅっとつかんだ。また投げ飛ばされるんじゃないかと心配したけど、彼はそのまま意識を失っておとなしくなった。

それからわたしは毒を抜く動作を繰り返し、薬を塗って布を巻いてあげた。荒れていた彼の呼吸が最初よりもだいぶよくなった。


一通り傷の手当が終わり、お母さんのために買ってきた熱冷ましの薬を飲ませることもできた。薬は水にぬれて湿ってたけど、何もあげないよりはましだろう。薬を飲んだ後、男の人はだいぶ落ち着いて、熱も少し下がってきたようだった。
この洞窟に落ちてきてからどれくらいたったんだろう。ぬれていた着物が急に重たく感じる。洞窟の天井に開いた穴からは月明かりが見えた。

「いたたたー。」
ほっとすると、体中の痛みがどっとくる。
「ほっとしてる場合じゃないよね。これからどうしよう...。」
急に疲れと痛みがでてきたわたしの体はこれ以上耐えられなく、そのまま気を失ってしまった。






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