白樺は空を見上げた。 そして、立葵は泣いていた。
 初夏、と言うには少し肌寒いという感じも
しなくは無い。寒いのが少し苦手な俺にとっ
ては、もう少し暖かくなって欲しいと思う。
 しかし、それは外に出た時の事・・・
今俺がいる場所に於いては至上のスパイスと
成り得る。
 そう、余り広くも無いが狭くも無いこの六
畳の部屋、その部屋の心地好い畳の香りに包
まれたこの蒲団の中に於いては!

ぴぴぴっぴぴぴっ
カチッ

「むぅ………」

今朝何度目かのアラームのスイッチを切る。
再びうたた寝を始めても、直ぐに鳴り出すの
はスヌーズをオンにしているから。
 その毎日恒例のイタチごっこの様な朝の微
睡を、これまた恒例の母親の怒声によって遮
られる。

「こらー!!何時まで寝てるの楓!バスに乗
り遅れるわよ!!」

 解っているんだ。解っているんだ母さん。
でもね、世の中には抗えない誘惑ってもの
もあるんだ。
遅刻すれすれでもあと五分の睡眠を求めてし
まうんだよ!
ほら、青春は眠いって言うじゃないか。
それにこの陽気。
初夏とは名ばかり!未だに春眠!
だからお願いもう少し寝かせt

ばさぁあッ ガツッ

「いい加減起きなさーい!!!」
「ううう……」

 蒲団を引っ剥がすなんて…。
 眠気と頭をぶつけたようで,その痛みでフ
ラフラしながら立ち上がる。

「早く着替えなさい。椛はもう待ってるわ
よ。」
「…あ~い……」

 そう返事して、着替えを持ち、下の階に降
りる。パジャマを洗濯機に放り込み、用を足
して、顔を洗って着替える。
 そして、学校の支度をして居間へ。
 朝食はいつも食べない。

「お兄ちゃん、やっと起きて来たね。いつも
ながら待ち草臥れちゃうよ。」
「ああ、すまねぇな、ふぁああ。」
「むふふ、お兄ちゃん大きいあくび。」
「お前には負けるよ…」
「そんなに大口開けてあくびしません!」
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