巡逢~茜色の約束~
何も知らない美生のことを、心の底から知りたいと思う。

初めの契約がどうでもいいなんて、そんなことを思う程に──美生は俺の中で大きな存在になっていたんだ。



「……千速くん?どうしたの?」

「……いや。ちょっと、ぼーっとしてた」

「えー?なんか千速くんらしくないね」

「……なんだそれ」



クスクスと笑う美生を横目に、フライパンを温める。

自分から言っといてなんだけど、料理をするときに誰かが隣にいるって……落ち着かねぇ。



そのとき、美生が声を上げた。



「わぁ、綺麗な月……!」



美生はキッチンの小窓から外を覗き込んでいる。



「……俺もさっき思った」

「だよねぇ。すっごい明るい」



ぴょこぴょこ跳ねる美生の後ろ姿は、まるで小動物のようで。

高い位置で束ねた髪が、尻尾みたいに踊っている。



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