巡逢~茜色の約束~
美生の言葉に、俺も箸を手に取った。





10月中旬の夜の風は、思った以上に寒かった。



「……ほら」



そう言って、グレーのパーカーを手渡すと、美生は待ってましたと言わんばかりの速さでそれを羽織った。



「ごめんね、自分のやつ洗濯中だって、忘れてた」

「……いや。つーかだぼだぼだな、それだと」

「そりゃあ……千速くんのなんだもん」



美生の言葉に、少しどきりとしてしまう。

俺のパーカーに身を包んだ彼女が、いつもよりも小さく見えたから。

月明かりに照らされた横顔があまりに綺麗だったから。



だけどきっと、それだけじゃなくて。



「月……綺麗だねぇ」



目を細めて空を見上げる美生の姿は儚げで、今にも消えてしまいそうで。

手放したくないと──心からそう思った瞬間、鼓動が速くなるのを感じた。



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