巡逢~茜色の約束~
「……っ!?」



ま、待て待て待て待て待て。

て、手放したくないって……誰が、誰を……!?



「月では兎がお餅ついてるんだよねー」



他人になんて無関心だったはずじゃないか。

他人のことなんてどうでもよくて、自分のことにさえ興味がなくて。

だから、死んでしまいたいって。



なのに──



「私、日本の兎も好きだけど、本を読むおばあさんっていう北ヨーロッパの見え方が好きなんだ」



美生は優しく笑いながら、ゆっくりと振り向く。

その目に、俺は完全に囚われた。



ふと、桜井の言葉が頭を過る。



“コイツはないわ、とか思ってても、気付いたら好きになってるもんやで”。

“その気持ちを自覚したら、もう一発。どんどん好きになっていく”。



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