巡逢~茜色の約束~
俺が美生を、──好き?



「……千速くん?」

「……」

「どうしたの?顔、赤いよ……?」



そんなことあるわけねぇ。

俺が美生を好きなんて、そんなこと。

──そう思うのに。



「……っ!?」



美生の手を引き、小さくて細い体を抱き寄せた。



「ち、千速くん……?」

「……っ」

「どうしたの……?」



好き、その言葉は何の違和感もなく俺の中に落ちてきて、頭で考えるよりも先に、体が動いていたんだ。



いつか聞いたことがある。

月は人を惑わすと。



確かにその通りかもしれない。

だって、今日みたいに月に心を奪われなかったら、俺はこの気持ちに気付かなかった。

俺はまだきっと、何も知らないままだった。



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