巡逢~茜色の約束~
「母さんにとって……俺って、何?」



大きなキャリーバッグを持ってリビングを出ていこうとする母さんの背中に投げ掛けた言葉は、重苦しい空気に溶けて消えていった。





10分もすれば、買い物袋を両手に提げた美生が帰ってきた。



「ただいまー……って、千速くん、寝てるの?」

「……」



ごめん、ほんとは起きてる。

けど喋る気になれなくて、ソファーに寝そべって狸寝入り。



「今のうちにご飯作っちゃおっと」



ガサガサと買い物袋が音を立ててキッチンへと移動していく。



「……っ」



涙が鼻筋を伝って、ソファーへと流れ落ちた。



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