巡逢~茜色の約束~
思わないけど、俺には素直な言葉なんて、他に思いつかねえんだよ。



「どこにも行くなよ……」



これが、美生を想う不器用な俺の精一杯。



どこにも行かないで。

外国になんて行かなくていいじゃん。

俺の傍にいて。

ずっと笑顔を見せていて。

それだけでいい。

俺は、それだけで──



「……ごめんなさい」



俺を拒む美生の声は、小さく震えてた。



やっぱり、変わらない。

美生の意思は、変えられない。

だってそれが美生だから。

俺が好きになった美生だから。



「……明日……何時に出んの」

「夕方くらい……だったかな」

「なんでそんな曖昧なんだよ」



ぎこちなくも笑みを浮かべた俺を前に、美生が少しだけ見せた安堵の表情。



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