巡逢~茜色の約束~
「……遅れました」



酷い顔を見られるのが嫌で俯きがちに席へと向かう途中、桜井と視線が絡み合ってしまった。

どちらからともなく顔を逸らし、何事もなかったかのように黒板に向かう。



右も左もない日常が非日常になって、また日常になる。

俺の世界は、美生と出会う前に戻るだけなんだろう。



でも──もう前の俺には戻れない。

君と過ごした時間や君がくれた言葉は、はっきりと胸に刻み込まれてるのに、戻れるわけなんてねえんだよ。

離れていくなら、ぬくもりなんて知らない方が楽だったのかもしれない。





時折聞こえる桜井や相川達の声にちくりと胸を痛ませながら、終礼までの時間の殆どを机に突っ伏して過ごした。



「この前渡したプリントの未提出者は来週持ってくるように。委員長、号令ー」

「起立ー」



いつもと変わらない掛け声で、終礼の終わりが告げられた。



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