巡逢~茜色の約束~
降り注ぐ、冷ややかな視線。



「……何しに帰ってきたわけ?」

「鋏を取りに来ただけだ。すぐ戻る」



言いつつ、リビングと繋がる書斎の扉を開けた。



「……」

「……」



父親が書斎に消えても美生が口を開くことはなく、俺もまた何も言わなかった。

否、その場に流れる空気が、言葉を発することを許さなかった。



ふと視線を下げると、膝の上で指が小刻みに震えていて。

この状態が怖いのか、それとも憎いのか、そんなのわからないけど……今すぐここから逃げ出したいのは確かだ。



間もなくして、手に黒いケースを持った父親が書斎から姿を現した。

チラッと美生に視線をやってから、再び俺を見る。



「じゃあな」



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