巡逢~茜色の約束~
父親は顔色一つ変えずに、その場から去っていった。



「……っ」



怒り、悲しみ、情けなさ……色んな感情が渦巻いて、重くのしかかる。

こんなのもう、慣れたと思っていたのに。

アイツが俺に無関心なことは、とうの昔から知っていたのに。



「わり……ちょっとトイレ」



美生にふいっと背を向けて、トイレへと逃げ込む。

まるで小さな子どものような、そんな気分。



「くそ……っ」



泣きたくないと唇を噛むけど、頬を伝う涙は次々と溢れ出す。



これでも昔は耐えられてたんだ。

どんなに悲しくても苦しくても、前を向けた。

支えになる夢が、希望が、俺のど真ん中にいつも在ったから。



だけどもう、俺には何も……、




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