好きになんてなるわけねーだろ!!!
杏奈は顔をしかめて、今度は俺を見る。
怖い顔してやがる…。
「じゃーね、光輝。気を付けて。」
何気に初めて呼ばれた名前に驚いて先輩を見上げる。
さようなら、そう言おうと口を開くも、それは先輩の声で遮られた。
「あ、そうだ。」
ドアを開けたから思い出したようにこちらを振り向く。
そして近づいてきて、杏奈に聞こえないように耳元で小さく小さく言った。
「ごめんな、俺も昔まったく同じこと経験してる。
助けなきゃって思うたびに殴られる瞬間が頭をよぎって怖くなるんだ。
助けたら「お前に何がわかる!?」とか言って殴られそうだし。
ここまで耐えたのに怪我して大会出れないとか想像しちゃって。
いつもいつも、助けてやれなくてほんとごめん。」
俺は、驚いて先輩の顔を見る。
これまでヘラりと笑っていた先輩は、真剣な瞳で俺を見ていた。
「でも、お前は悪くねーよ。
悪いのは上手くなれなかったあいつら。
絶対、メンバー辞退とかすんな。
チームの空気も気にしなくていい。
サッカーしてる間は、俺がいる。」
そして俺から離れて、頭を軽く叩いて部屋から出て行った。
「なにあの人。光輝何言われ…光輝!?」
俺は気づいたら泣いていた。
いつ泣き出したのかは分からない。
自分でも気づかないうちに、涙があふれていた。
「光輝?…どうしたの?」
心配そうにする杏奈の優しさにも、また涙があふれてきて。
本当にどうしようもなく俺は泣き続けた。