明日はアシタの風が吹く!【最終話】
「ギャアッ!」

俺は、何かでっかいものに上から押しつぶされた。

ぼよぉんっ

それはもんのすごぉく柔らかくて、弾力もあって、ぼよぼよしてて、俺の上を弾んで行った。

まるで……感触は、はんぺん?

なっ何だったんだ、アレは。

すっ飛んだママチャリGT-Rを引き起こし、俺は飛ぶように弾みながら遠のいていく白い巨大な物体を見つめる。

「イタタタタァ」

聞き慣れた声がしてそちらを見たら、盗人ミツゴロウが頭をさすりながら上体を起こしているところだった。

「おいテメェ、ミツゴロウ。卵どうしたんだよ、卵は」

俺は盗人の胸ぐらをつかんで舐め上げるようにガンを飛ばす。

「あっあれじゃ……あれじゃよあれ……」

ガッタガタ震えながらミツゴロウが右腕を後ろに延ばしたから、俺は視線をそっちに向ける。

「高齢者は、いたわるもんだバカ者ォ!!」

一瞬、意識がすっ飛んだ。

「イッテェ」

思いっ切り頭を殴られて俺は路上に横たわる。

「最近の若者は、なっとらん。損害賠償に、これを貰っていく!」

「あ、待て。ッツ~ぅ」

ミツゴロウに殴られ、道路にしこたま打ちつけた身体が痛い。

そのせいで俺はママチャリGT-Rを強奪されてしまった。

あのジジイ、マジ半端ねぇ。

痛む頭をさすりながら俺は立ち上がり、ほとんど見えなくなったジジイと、かろうじてぼんやり見える白い物体を見て、歯を食いしばった。

絶対取り戻してやる。

待ってろミツゴロウ!!

このまま追っても分が悪いから、俺はいったん事務所に戻った。

「モヤシ女さんは?」

帰って早々先代に尋ねると、伏し目がちに首を横に振る。

「帰りを待ちきれずに、眠ってしまったよ」

えっ……マジ……で……?

そんなこと、考えもしなかった。

俺は卵とミツゴロウに気を取られてて、あの人のことは今の今まで思考の外だった。

出産は危険が伴うって、そりゃ知ってたけど…………

ここには設備もないし、多分先代も出産に対して知識なんかなかったし。

でもさ、こんなの、あまりに……急じゃんかよ……
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