ツンデレ専務と恋人協定
「大人しいじゃねぇか」

「専務だって」


手をつないでからふたりとも一言も話していなかった。


「お前は言わなきゃ、俺のこと名前で呼ばねぇな」


専務に会社以外では名前で呼べって言われていたの忘れていた。

もうずっと専務のことを名前でなんか呼んでいなかった。

私は言い返す言葉が見つからず、専務の横顔を見ていた。

すると、専務はその視線に気付きゆっくりと顔を近づけてきた。

私は逃げることなく瞳を閉じて、専務のキスを受け入れようとした。

だけど、待っていても専務の唇は私の唇には触れてこない。

私はゆっくりと瞳を開けると、専務は私を真っ直ぐ見つめていた。


「お前さ、好きでもない男にキスされようとしてんのに逃げろよ」

「え?」

「何、目なんか瞑ってんだよ」


専務はそう言うと、私の繋いでいた手を放して歩き出した。

だけど、私はその場に立ち尽くしたまま考えていた。

初めて無理やりキスされたときは本当に嫌で、最低だと思った。

でも、今日は嫌と思うどころか、されるのを待ってしまっていた。


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