夢幻泡影
【 瑛 】
屯所を飛び出した
新選組の他に知り合いなんて、琴里しかいない
だけど、琴里を巻き込む訳にはいかない
誰を信じていいのか
どこに行けばいいのか
ただひたすら…遠くへ…遠くへ、走った
町外れの田舎にいた
『ここまでくれば、もういいか……』
とぼとぼと歩く、頬を伝う涙も拭かず
いっそ死ねたらと考えても、刃物もなく
何も持っていないと気がついた
広間から飛び出した為、裸足だった
『痛い……』
瑛の足は血まみれ
『あの寺に行こう』
人のいなさそうな、寺へ
中へ入ると、人の気配
「ん?ちょっと!!その足!!!」
寺にいた僧侶は、すぐに瑛の手当てをする
「しばらく歩くのは、辛いだろうね」
僧侶は瑛を見て、にこりと微笑む
「久しぶりだね?」
瑛が瞬きをする
「覚えてないかい?圭尚だよ!紗瑛(サエ)!」
『母上のお知り合い…?』
「いや~紗瑛!ちっとも歳を取らないね!どうして京に?猛(タケル)は?」
『父上も知ってる……』
「あ!!まさか…血売りのことがばれて、追われているのか?」
『血売りのことも…』
「紗瑛?」
瑛は圭尚の腕あたりの着物を掴んだ
止めどなく流れる涙
『両親が圭尚さんの元に導いてくれたに違いない!』
「・・・・」
〝たすけて〟
「声が出ないのかい?」
頷く
「その様子だと、猛も子供たちも取られたんだね…」
頷く
声が出せないから、自分が紗瑛の娘の瑛だと説明するのは、やめた
たすけて貰う為、母の名前を使う
「足が良くなったら、江戸に帰るといい」
頷く
『…江戸にも知り合いなんて、いないな
でも、京より追われる可能性は低いはず
父上は、人を怨んではいけない
母上は、人を愛しなさい
兄上は、愛すべき人の為だけに血を使え
血を利用しようとする人に、使い方を教えてはいけない!
ずっと言われていたこと
京に来て意味がわかった…人は怖い
簡単に信じてはいけない!…この人も…』