透明な海~恋と夕焼けと~
「あ、そうだ。
僕はこういう者です」
恥ずかしそうにはにかみながら、彼は名前の書かれたメモ帳をあたしの前に出した。
あたし以上に綺麗な字かもしれない。
【仁科季】
「にしな……?」
「そう。
仁科季(にしな・みのる)です」
季節の季で、ミノル……。
難しい名前だな、と思いながらあたしも隣に、自分の名前を書いた。
【折坂美音】
「おりさか…みのん?」
「惜しいです。
折坂美音(おりさか・みお)って言います」
「美しい音でミオちゃんか。
僕の名前も変わっているって言われるけど、美音ちゃんも変わっているね」
クスクス小さい子みたいに笑う仁科さん。
二十歳なのに二十歳に見えないその容姿と笑顔に、あたしはつられて笑った。
「美音ちゃん、やっと笑ったね」
「え?」
「さっきからずっと泣いてばかりだったから。
美音ちゃんは、やっぱり笑顔の方が似合うね」
頬杖をつきながら笑う仁科さん。
その綺麗な姿に、あたしは思わずドキッとしてしまった。