透明な海~恋と夕焼けと~
教室に入ると、誰1人声をかける人はいない。
前は基樹がいたけど。
授業が始まっても、基樹の背中ばかり追ってしまう。
斜め前に基樹がいるとか。
席替えした時は幸せだったけど…。
今は全く嬉しくなんてないよ。
あーあ、あたしって未練タラタラじゃない。
まだ基樹基樹言っている。
『美音ちゃん』
「ふぇっ!?」
何故か頭の中に仁科さんの笑顔が浮かんできて。
思わず叫んでしまった。
その上、立ちあがっていた。
…痛い。
クラスメイトからの視線が、凄く痛い。
だって授業中に立ったんだよ?
しかも変なこと言っちゃったし……。
「折坂、何しているんだ。
座りなさい、授業中だ」
「…ごめんなさい……」
しかも今は、厳しい先生だと有名な、数学の時間。
鋭い目つきのオジサン先生に叱られ、あたしは座った。
何で仁科さんのことが、浮かぶんだろう?
仁科さんは、優しいから。
だからあたしを、泊めてくれただけの人。
何で…。
何で仁科さんの、笑顔が…忘れられないの?