透明な海~恋と夕焼けと~
あたしは昨日に引き続き、エントランス内にいた。
デパートにいる受付嬢みたいな人が、あたしを覚えているみたいで、小さく頭を下げてくれた。
「あたし、覚えられているみたいです……」
エレベーターが下りて来るのを待つ間、あたしは小声で言った。
「みたいだね。
あの人無愛想だって住民には有名なんだけどね。
美音ちゃんが可愛いの、わかるのかもね」
……あたしたちの間に、沈黙が広がった。
仁科さん、今なんて言いました?
美音ちゃんが可愛いの、わかるのかもね?
「仁科さん……?」
思わず顔を覗きこむと、仁科さんは右腕で自分の顔を隠していた。
でも目元などは見えていて、そこが真っ赤に染まっていた。
「仁科さん…」
「…………」
「あたしを可愛いと……思うんですか………」
……聞いているこっちが恥ずかしくなって来た。