透明な海~恋と夕焼けと~
仁科さんは右腕をおろすと、吐き出すように言った。
「可愛いよ、可愛いに決まっているだろ」
あたしを見つめる瞳は、怒っているように見えた。
違う、本気で怒っているんじゃない。
仁科さんなりの、
照れ隠しなんだ……。
「…フフッ、アハハ」
「わ、笑うなよ美音ちゃん」
左手で自分の髪の毛、右手であたしの髪の毛を器用にくしゃくしゃにする仁科さん。
あたしはくしゃくしゃになる髪の毛を押さえながら、笑った。
ふと仁科さんの手に触れた。
恥ずかしさを隠すのに必死になっている仁科さんは、触れたことに気が付かないみたいだ。
仁科さんの顔は、リンゴのように真っ赤なのに。
一瞬だけ触れた手は、氷のようにひんやり、冷たかった。