透明な海~恋と夕焼けと~
仁科さんはふっと笑って、あたしの手を掴んだ。
そしてゆっくり、慣れない手つきであたしの手を握った。
「行こうか、美音ちゃん」
「仁科さん…」
「僕の手、冷たいでしょ?
離したければ離せば良い。
離れたくないのなら、繋いでおけば良い」
確かに仁科さんがあたしの手を掴む強さは弱くて。
簡単に振りほどけると思った。
でもあたしは、冷たい手を握った。
「離れたくないので、繋いでも良いですか?」
あたしにしては、強引だ。
自分でも驚く。
「勿論」
仁科さんも同じくらい、握り返してくれた。
そして、空いている右手で、家の鍵らしきものを手に取った。
「……行こうか」
「はい」
手をしっかり繋いだまま、あたしは仁科さんの家を出た。