透明な海~恋と夕焼けと~
理由
マンションを出て、あたしたちは近くのスーパーへ向かった。
その間も、ずっと手は繋ぎっぱなしだ。
緊張はするし、ドキドキが止まらないけど。
嬉しさの方が、大きかった。
あたしはふと、基樹を思い出した。
基樹とあたしは付き合っているのに、手なんて繋いだことなかった。
勿論キスなんてしたこともなかった。
愛だって毎日のように囁き続ける関係ではなかった。
ただ、友達の延長戦みたいな感じなだけ。
それなのにまさか。
仁科さんと手を繋ぐなんて。
付き合っていたはずの基樹以上のことをするなんて。
仁科さんは慣れているのかな?
てか今更だけど、仁科さんって何者?
二十歳って言っていたけど。
二十歳の人が、あんな高級そうなマンションに住めるわけない。
その上こんな夕方に働かずに、海辺を散歩しているのも可笑しい。
仁科さん、家族は?
彼女も…いるのかな?
でも彼女がいたら、普通あたしと手なんて繋がないか。
……普通はね。