透明な海~恋と夕焼けと~
仁科さんは強く、あたしの肩を掴んだ。
「仁科さっ……!?」
「美音ちゃん、アイツのこと、何で知っているんだ!?」
いつも冷静で、いつも笑顔を絶やさなかった仁科さんじゃない。
今目の前にいる仁科さんは、目が血走っていて、怖いと思った。
自然にあたしの目から、涙が出てきた。
仁科さんはすぐに気が付き、焦ったようにあたしの肩から手を離した。
「ごめんっ……」
首だけ後ろを向くその肩は、激しく上下に動いていた。
「仁科さんっ……」
「ごめん…。
僕、アイツが関わると、どうしても我を忘れちゃうんだ……」
辛そうに荒い息を繰り返す仁科さん。
あたしは思わず、その背中に抱きついた。
「美音ちゃんっ……!?」
「ごめんなさい仁科さん……ッ!
あたし、話していないこと、沢山あります……」
あたしが抱きつく仁科さんの広い背中が、震えているように見えた。