透明な海~恋と夕焼けと~
絵の下に書かれた、【仁科季】。
その字はまさしく、あたしが仁科さんと会った日、仁科さんがメモ帳に書いた名前の字と一緒だった。
「仁科さんが…この絵を……?」
でも、仁科さんは絵を描いているなんて1度もあたしに言ったことないよね?
そもそもあたし、仁科さんのこと…本当に何も知らないよ……。
「何しているのかしら?」
声が聞こえ、急いで振り向く。
入り口に立っていたのは、美術顧問の先生だった。
「あら、折坂さんじゃない」
「お、お久しぶりです……」
「浅居さんは?」
「帰りました……。
あたしが、代わりに探しています……」
「あら、そうなの」
出て行こうとした先生を、思い切って止めた。
「先生!
先生は、仁科季という男子生徒を…ご存知ですか?」
先生が知っていたのなら、当時仁科さんは生徒だ。
二十歳で男子生徒は可笑しいけど、わかりやすいと思った。