透明な海~恋と夕焼けと~
「仁科くん?…ええ、知っているけど?」
あたしが仁科さんを知っていることに、先生は驚いていた。
「この絵、描いたの…そうですか?」
「あら懐かしいわね。
仁科くん、この絵をきっかけに天才少年って噂になったんだから」
天才少年…。
「今は…?」
「今?
…実はこの絵を描き終わって、仁科くんは美術部を辞めてしまったのよ」
「な、何でですか!?」
「詳しくは知らないんだけど…。
その絵、コンクールに出品されて、見事最優秀賞を取ったのよ。
有名な美大の先生も、仁科くんを是非入学させたいとまで仰っていたほどなのに。
仁科くんも、勿体ないことしたわよね……」
仁科さんが、そこまで凄い生徒だったなんて…。
「そういえば、仁科くん…辞めるって言いだす数日前に、事故にあったわね」
事故……?
「それで暫く学校休んでいて、出てきてすぐに退部して、学校まで辞めてしまったのよ。
今はどこで何しているのかしらね……」
あたしは先生が叫ぶのを無視し、校内を走った。