透明な海~恋と夕焼けと~
「……兄貴は、その事故で……絵を描けなくなるほどの……大怪我を負ったんだ………」
絵を描けなくなるほどの、大怪我?
でも仁科さん、怪我をしているようには見えなかったけど……。
気になったけど。
基樹はそれ以上語ろうとしなかった。
「基樹」
「…何?」
「何で、美術部辞めたの?」
「………」
「浅居さん、基樹が辞めて寂しそうだったよ。
基樹は絵が上手いんだから、続けた方が良いよ。
遠いけど、美大に入るって言っていたんでしょ……?」
「無理だよ」
基樹は溜息をつきながら言った。
「俺は兄貴以上にはなれないから…。
俺は兄貴から、絵だけじゃなくて…沢山のモノを奪ったんだ。
もうこれ以上……兄貴のモノは奪いたくねーんだ………」
基樹の目から、はらり…と涙がこぼれた。
「仁科さんから奪った……?」
「ああ……」