透明な海~恋と夕焼けと~
お母さんは専業主婦。
お父さんは単身赴任中。
だから普段は鍵なんて持って行かなかった。
でも今日はお母さんは学生時代の知り合いとご飯を食べに行くから。
鍵を必ず持って行くのよって行く間際、何度もお母さんに言われたのに。
……忘れてきちゃった。
「どうしたの?」
あたしの隣に座り、聞いてくる彼。
ふわり…と甘い香水か何かのにおいがして、落ち着く。
…じゃなくて!
「な、何でもないです。
家の鍵を置いてきてしまっただけです」
「…それ、何でもなくないよね?」
どうしよう。
あたし家に帰れない。
お母さん今日、友達の家にそのまま泊まるって言っていたのに。
「なら早めに友達の家とか行った方が良いよ」
友達。
クラスで友達がいないあたしにとっては、聞きたくない言葉だった。