透明な海~恋と夕焼けと~
『美音ちゃん、まだ基樹のこと…好きなんでしょ』
「違いますっ……」
『嘘つかなくて良いんだよ美音ちゃん。
僕、もうわかっているから……』
「違いますっ!
誤解も良い所です!!」
そこまで叫んだところで、後ろに人がいることに気が付いた。
お金持ちそうな、このマンションに相応しいオバサン。
「仁科さん、この機械使いたい人がいるので、1回切りますね」
『……わかった』
切れたのを確認し、オバサンに代わった。
オバサンはやはりこのマンションの住民らしく、仁科さんが持っていたカードキーを差し込み、中へ入って行った。
あたしもオバサンに続いてマンション内に入る。
オバサンと一緒にエレベーターを待ちながら、電話をかけた。
しかし呼び出し音が続くだけで、仁科さんは一向に出ない。
あたしはスマホを握りしめた。
仁科さん。
お願い……出て………。
お願いしている間に、エレベーターが止まった。
オバサンを先に通し、あたしも続けて入る。
5階のボタンを押し、その間もずっと鳴らし続けた。