透明な海~恋と夕焼けと~
出ないまま5階に着き、あたしは仁科さんの家の前に立った。
インターフォンを押すけど、誰も出て来ない。
「仁科さん!」
あたしは近所迷惑にならないぐらい、扉を叩いた。
でも、何の反応もない。
スマホからも、相変わらず呼び出し音が鳴るだけ。
イチかバチかで、ドアノブをまわした。
すると、鍵は開いていたようで、扉が引かれた。
あたしは中へ入り、叫んだ。
「仁科さん!!
あたしです、折坂美音です!
仁科さん、どこですか!?」
「お邪魔します」と声をかけ、中へ入るけど。
誰の声もしない。
その前に、人がいる気配がしない。
「仁科さん!?」
リビングへ続く扉を開けた。
でも、誰もいない。
あたしが入ったことがあるのは、リビングとお風呂、トイレぐらい。
他の部屋は「汚いから」って、仁科さんは見せてくれなかった。
入ろう。
汚いとか、この際関係ない。
あたしは、仁科さんの全てを、受け止めるつもりだ。