透明な海~恋と夕焼けと~
季はあたしを見た後、無言で無表情で、あたしの手を握り返した。
でもその瞳は、寂しさと哀しさをうつしたまま。
「季……」
「僕ね、見えないんだ」
「え?」
見えない……?
「この夕焼けも、海の色も。
それだけじゃない。
美音。美音の顔も、見えないんだ」
そこでやっと、季は笑う。
自分を嘲笑うかのような、そんな笑みだった。
…見ていて、凄く辛かった。
「どういう意味なの……?」
「…美音は美術部だったよね」
「元、だけどね」
「色覚って言葉、知っているかな?」
あたしは頷いた。
脳にある、色を宿す部分。
十人十色、と言う言葉があるように、人はそれぞれ色の見え方が違う。
色覚異常と言う言葉があるぐらいだ。
まぁ今は、色覚特性だと言われているみたいだけど……。