透明な海~恋と夕焼けと~






季はあたしを見た後、無言で無表情で、あたしの手を握り返した。

でもその瞳は、寂しさと哀しさをうつしたまま。




「季……」

「僕ね、見えないんだ」

「え?」




見えない……?





「この夕焼けも、海の色も。
それだけじゃない。
美音。美音の顔も、見えないんだ」




そこでやっと、季は笑う。

自分を嘲笑うかのような、そんな笑みだった。

…見ていて、凄く辛かった。





「どういう意味なの……?」

「…美音は美術部だったよね」

「元、だけどね」

「色覚って言葉、知っているかな?」




あたしは頷いた。




脳にある、色を宿す部分。

十人十色、と言う言葉があるように、人はそれぞれ色の見え方が違う。

色覚異常と言う言葉があるぐらいだ。



まぁ今は、色覚特性だと言われているみたいだけど……。







< 69 / 92 >

この作品をシェア

pagetop